外部との関係で無限があらわれる。
表現は無限の次元の開示である。
国際的にも大きな注目を集めてきた「もの派」を代表する美術家、李禹煥(リ・ウファン、1936年生)の待望の日本での大規模な回顧展を開催します。
東洋と西洋のさまざまな思想や文学を貪欲に吸収した李は、1960年代から現代美術に関心を深め、60年代後半に入って本格的に制作を開始しました。視覚の不確かさを乗り越えようとした李は、自然や人工の素材を節制の姿勢で組み合わせ提示する「もの派」と呼ばれる動向を牽引しました。また、すべては相互関係のもとにあるという世界観を、視覚芸術だけでなく、著述においても展開しました。
李の作品は、芸術をイメージや主題、意味の世界から解放し、ものともの、ものと人との関係を問いかけます。それは、世界のすべてが共時的に存在し、相互に関連しあっていることの証なのです。奇しくも私たちは、新型コロナウィルスの脅威に晒され、人間中心主義の世界観に変更を迫られています。李の思想と実践は、未曾有の危機を脱するための啓示に満ちた導きでもあります。
本展では、「もの派」にいたる前の視覚の問題を問う初期作品から、彫刻の概念を変えた「関係項」シリーズ、そして、静謐なリズムを奏でる精神性の高い絵画など、代表作が一堂に会します。また、李の創造の軌跡をたどる過去の作品とともに、新たな境地を示す新作も出品されます。
- 西日本では初めてとなる大回顧展です。
「もの派」を代表する美術家、李禹煥の大規模な回顧展は、西日本では初めての開催となります。
※本展は2022年8月から国立新美術館で開催された展覧会が巡回するものです。ただし出品作品は一部異なります。 - 展示構成は李禹煥が自ら考案しました。1960年代の最初期の作品から最新作まで、李の仕事を網羅的に浮き彫りにします。
- 彫刻と絵画の2つセクションに大きく分かれています。彫刻と絵画の展開の過程が、それぞれ時系列的に理解できるように展示されます。
- 安藤忠雄設計による兵庫県立美術館の建築に合わせ、屋外にも新作が展示されます。
- 俳優の中谷美紀さんがナビゲーターを務める音声ガイドは、なんと無料。
展覧会のみどころ
展覧会冒頭に展示されるカンヴァスにピンクの蛍光塗料を用いた三連画《風景I, II, III》(1968年)は、東京国立近代美術館で開催された「韓国現代絵画展」(1968年)に出品された李の初期の代表作です。蛍光塗料を用いたレリーフ作品《第四の構成A, B》(ともに1968年)と同様、視覚を攪乱させるような錯視効果を強く喚起する作品です。トリッキーな視覚効果を引き起こすこれら作品は、1960年代末の日本に興隆していた傾向を反映しています。
1968年頃から制作された〈関係項〉は、主に石、鉄、ガラスを組み合わせた立体作品のシリーズです。これらの素材には殆ど手が加えられていません。李は、観念や意味よりも、ものと場所、ものと空間、ものともの、ものとイメージの関係に着目したのです。1990年代以降、李はものの力学や環境に対しても強く意識を向けるようになり、石の形と鉄の形が相関する〈関係項〉も制作しています。より近年の作品では、環境に依存するサイトスペシフィックな傾向が強まっており、フランスのラ・トゥーレット修道院で発表された《関係項―棲処(B)》(2017年)はその典型です。
2021年、李はフランスのアルルにある古代ローマの墓地アリスカンを舞台に個展を開催しました。礼拝堂内に展示された《関係項-無限の糸》は、鏡のように磨き上げられた丸い大きなステンレスの底面に向かって、上から細い糸が一本垂れ下がる、〈関係項〉シリーズの最新作の一つです。本展では、兵庫県立美術館の地下から2階へと続く螺旋階段に、本作を元にした新作が設置されます。そこでは、安藤忠雄設計による建築空間と作品との響き合いを感じることができるでしょう。
1971年にニューヨーク近代美術館でのバーネット・ニューマンの個展に刺激を受けた李は、幼年期に学んでいた書道の記憶を思い起こし、絵画における時間の表現に関心を強めました。1970年初頭から描き始めた〈点より〉と〈線より〉のシリーズは、色彩の濃さが次第に淡くなっていく過程を表しています。行為の痕跡によって時間の経過を示すこのシステマティックなシリーズは、10年ほど続けられます。
1980年代に入ると、〈風より〉と〈風と共に〉のシリーズに顕著なように、画面は荒々しい筆遣いによる混沌とした様相を呈してきます。80年代終わり頃からはストロークの数は少なくなり、画面は次第に何も描かれていない空白が目立つようになります。2000年代になると、〈照応〉と〈対話〉のシリーズが示すように、描く行為は極端に限定され、ほんの僅かのストロークによる筆跡と、描かれていない空白との反応が試されます。〈点より〉や〈線より〉と対照的に、これらは空間的な絵画のシリーズと言えます。
終了しました
会期 |
2022年8月10日(水)~11月7日(月) 毎週火曜日休館 |
---|---|
開館時間 |
10:00~18:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで |
会場 |
国立新美術館 企画展示室1E 〒106-8558 |
アクセス |
※美術館に駐車場はございません。 |
主催 |
国立新美術館、 |
協力 |
SCAI THE BATHHOUSE |
お問合せ |
050-5541-8600(ハローダイヤル) 令和4年度日本博主催・共催型プロジェクト |
会期 |
2022年12月13日(火)~2023年2月12日(日) |
---|---|
開館時間 |
10:00~18:00 ※入場は閉館の30分前まで |
休館日 |
月曜日、年末年始[12月31日(土)~1月2日(月)] ただし、1月9日(月)は開館、1月10日(火)は休館 |
会場 |
兵庫県立美術館 〒651-0073 |
アクセス |
※ご来館はなるべく電車・バスをご利用ください |
TEL | 078-262-1011 |
主催 |
兵庫県立美術館、 |
協力 |
SCAI THE BATHHOUSE |
協賛 |
公益財団法人伊藤文化財団 |
助成 |
一般財団法人安藤忠雄文化財団 |
特別協力 |
公益財団法人日本教育公務員弘済会 兵庫支部 |
令和4年度日本博主催・共催型プロジェクト |
TICKETS
終了しました
観覧料(税込) |
一般 1,700円、 |
---|
- 中学生以下は入場無料。
- 障害者手帳をご持参の方(付添の方1名含む)は入場無料。
- 10月8日(土)~10日(月・祝)は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要)
- チケット取扱い:国立新美術館(8月10日から販売、開館日のみ)、オンラインチケット(7月27日10時から販売)、チケットぴあ(7月27日10時から販売)
- 本展では団体券の販売はいたしません。
- 会期中に当館で開催中の他の企画展および公募展のチケット、またはサントリー美術館および森美術館(あとろ割対象)で開催中の展覧会チケット(半券可)を国立新美術館チケット売場(中央インフォメーション横)で提示された方は、本展覧会チケットを100円割引でご購入いただけます。
- 国立美術館キャンパスメンバーズ加盟の大学等の学生・教職員は本展覧会を学生1,000円、教職員1,500円でご覧いただけます。国立新美術館チケット売場(中央インフォメーション横)でお求めください。
観覧料(税込) |
【前売】 |
---|
- 前売は一般、大学生のみ。前売販売期間:10月1日(土)~12月12日(月)(会期中は販売しません)
- 一般以外の料金でご利用される方は証明書を観覧当日ご提示ください
- 障がいのある方1名につき、介護の方1名無料
- コレクション展は別途観覧料が必要です(本展とあわせて観覧される場合は割引があります)
- 予約制ではありません。混雑時は入場制限を行いますのでお待ちいただく場合があります
- 団体鑑賞をご希望の場合は1ヶ月前までにご連絡ください
【主なチケット販売場所】
ローソンチケット(Lコード:51645)、
チケットぴあ(Pコード:686-203)、
セブンチケット(セブンコード:096-988)、
楽天チケット、イープラス、CNプレイガイドほか
関連イベント
「李禹煥」展の関連プログラムとして、展覧会の開幕に先立ちアルフレッド・パックマン氏の講演会を開催しました。
出演者 |
アルフレッド・パックマン アルフレッド・パックマン(略歴)
1948年、パリに生まれる。ポンピドゥー・センター・国立近代美術館館長、パリ国立高等美術学校校長、ジュ・ド・ポーム国立美術館館長を歴任。2022年のフランス、アルルのアリスカン墓地での展覧会「李禹煥 レクイエム」のキュレーションを担当。 |
---|---|
日時 | 終了しました |
会場 | 国立新美術館 3階講堂 |
アーカイブ視聴 | 視聴する |
各界で活躍する美術家、キュレーター、評論家、建築家らと、李禹煥との連続対談シリーズ。
出演者 |
松井茂と李禹煥 松井茂(略歴)
1975年、東京に生まれる。詩人、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]メディア表現研究科 准教授。著書に『虚像培養芸術論 アートとテレビジョンの想像力』(フィルムアート社、2021)等。キュレーションに「磯崎新 12×5=60」(ワタリウム美術館、2014)、「磯崎新の謎」(大分市美術館、2019)等。 |
---|---|
日時 | 終了しました |
会場 | 国立新美術館 3階講堂 ※非公開 |
アーカイブ視聴 | 視聴する |
出演者 |
王舒野(ワン・シュウイエ)と李禹煥 王舒野(略歴)
1963年、中国黒龍江省に生まれる。1990年に来日。鎌倉と北京を拠点に、認識以前の世界を現出させるような絵画を精力的に描く。 |
---|---|
日時 | 終了しました |
会場 | 国立新美術館 3階講堂 |
アーカイブ視聴 | 視聴する |
出演者 |
酒井忠康(世田谷美術館館長)と李禹煥 司会・逢坂恵理子(国立新美術館長) 酒井忠康(略歴)
1941年、北海道生まれ。世田谷美術館館長、東北芸術工科大学客員教授。神奈川県立近代美術館館長などの要職を歴任。美術評論家としても多くの著作がある。 |
---|---|
日時 | 終了しました |
会場 | 国立新美術館 3階講堂 |
アーカイブ視聴 | 視聴する |
出演者 |
ハンス・ウルリッヒ・オブリストと李禹煥 ハンス・ウルリッヒ・オブリスト(略歴)
1968年、スイスのチューリヒに生まれる。世界を代表するキュレーター、評論家、美術史家。現在はロンドンのサーペンタイン・ギャラリーのアーティスティック・ディレクターを務める。 |
---|---|
日時 | 終了しました |
会場 | 国立新美術館 3階講堂 |
アーカイブ視聴 | 視聴する |
出演者 |
浅田彰と李禹煥 浅田彰(略歴)
批評家・京都芸術大学教授 1957年生まれ。1983年に『構造と力』(勁草書房)を発表、時の人となる。哲学・思想史のみならず、美術、建築、音楽、舞踊、映画、文学ほか多種多様な分野において批評活動を展開する。 |
---|---|
日時 | 終了しました |
会場 | 兵庫県立美術館ミュージアムホール |
アーカイブ視聴 | 視聴する |
出演者 |
安藤忠雄と李禹煥 安藤忠雄(略歴)
建築家 1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、1969年に安藤忠雄建築研究所を設立。イェール大、コロンビア大、ハーバード大の客員教授、1997年から東京大学教授、2003年から同大学名誉教授を務める。プリツカー賞をはじめ国内外で数多くの受賞歴があり、10年文化勲章受章。 |
---|---|
日時 | 終了しました |
会場 | 兵庫県立美術館ミュージアムホール |
アーカイブ |
出演者 |
島袋道浩と李禹煥 島袋道浩(略歴)
美術家 1969年、神戸市生まれ。那覇市在住。世界各地を旅しながら、その場所や人々の生活、文化に関するインスタレーションやビデオ作品などを制作する。 |
---|---|
日時 | 終了しました |
会場 | 兵庫県立美術館ミュージアムホールおよび企画展示室 ※非公開 |
アーカイブ視聴 | ギャラリートーク/ミュージアムホール |
日時 | 終了しました |
---|---|
会場 | 国立新美術館 3階講堂 |
アーカイブ視聴 | 視聴する |
図録・グッズ
展覧会公式図録
60年代の初期作品から、彫刻の概念を変えた〈関係項〉シリーズ、最新の絵画作品を収録。
国立新美術館、兵庫県立美術館での展覧会公式図録。
-
ノート
《応答》《点より》を表紙に使用したドイツ装のノート。作品はトリミングせずに表紙に使用しています。表紙・裏表紙の紙がしっかりとした厚みで書きやすい。価格:1,650円(税込) -
珈琲ドリップバッグ
恵比寿に本店がある猿田彦珈琲。いくつもの珈琲を飲み比べて作家が選んだブレンドです。本展商品のために描き下ろした作品が入ったオリジナルパッケージです。価格:1,080円(税込) -
Tシャツ
本展のために描かれた作品が入ったTシャツは、厚みある生地で着心地も良いです。ボディカラーは白と黒、サイズはユニセックスのM、L、XLの3サイズ。価格:5,500円(税込) -
マルチクロス
壁に吊るしたり、ソファなどにかけたりといろいろな使い方を楽しめる、900㎜×900㎜の大判サイズのマルチクロス。マルチクロスのために描かれた作品をプリントしています。価格:5,280円(税込) -
ポスター
ポスター用に描かれた作品を厚みのある紙を使用し、クオリティ高い印刷で作品を再現しています。価格:5,500円(税込)
音声ガイド
お手持ちのスマートフォンで簡単にご利用頂けます。
世界各地で李禹煥の作品をご覧になっている中谷美紀さんが、鑑賞ポイントをご案内。
作家本人や本展担当キュレーターによる解説のほか、
時折、李禹煥と中谷美紀さんとの対話も繰り広げられます。
ぜひお楽しみください。
◎中谷美紀さんからのメッセージ
この上なくシンプルな点や線、そして石や鉄板などで表される李禹煥さんの作品は、溢れた物や情報に埋もれて息苦しく感じている現代に生きる私たちの心身を解き放ってくれます。
俗に言う肖像画や静物画、風景画などは一切ありませんが、点や線の周囲に贅沢に残された余白こそが饒舌に語りかけてくるような気がしています。
私にとって李禹煥さんの静かで厳かな作品は、心の拠り所であり、少しがんばりすぎたり、急ぎすぎた際に、ふと立ち止まって、自らを省みるための鏡のようでもあります。
これらの作品群を鑑賞する際に、決して正解はありません。ご覧になる方が思い思いに作品と向き合い、対話し、斜めから眺めてみたり、かがんで見上げてみたり、時には彫刻作品の上を歩いてみたりすることで、これまで生育過程や社会で植え付けられてきたステレオタイプな価値観を疑ってみる機会となるのではないでしょうか?
Profile
1976年1月12日生まれ。東京都出身。1993年に俳優デビュー。『壬生義士伝』(03/滝田洋二郎監督)で日本アカデミー賞優秀助演女優賞、『嫌われ松子の一生』(06/中島哲也監督)で同賞最優秀主演女優賞、『自虐の詩』(07/堤幸彦監督)で同賞優秀主演女優賞、『ゼロの焦点』(09/犬童一心監督)で同賞優秀助演女優賞、『阪急電車 片道15分の奇跡』(11/三宅喜重監督)で同賞優秀主演女優賞、『利休にたずねよ』(13/田中光敏監督)で同賞優秀助演女優賞を受賞。
2011年に初舞台「猟銃」で紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞、2013年の「ロスト・イン・ヨンカーズ」では読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞する。
「オーストリア滞在記」(幻冬舎文庫)など書籍の執筆活動も手掛ける。
インスタグラム @mikinakatanioffiziell
李禹煥と中谷美紀
2022年6月撮影 撮影:伊藤彰紀
ナビゲーター:中谷美紀(俳優)
作家解説:李禹煥
キュレーター解説:米田尚輝(国立新美術館主任研究員)、小林公(兵庫県立美術館学芸員)
収録時間:約30分
※イヤホンやヘッドホンをお持ちください。
※ガイドのご利用には無料Wi-Fiへの接続かデータ通信が必要となります。
※ご希望の方には、音声ガイド機のお貸出しもございます。
※耳がご不自由なお客様へは音声ガイドの台本の貸出を無料で行っております。
音声ガイドサービスに関する
お問い合わせ
(株)アコースティガイド・ジャパン
support@acoustiguide.co.jp
TEL:03-5771-4083(月~金、9:30~18:00)